労働基準法

《目次》【賃金に関する判例他】

【賃金に関する判例他】

【問題】最高裁判所の判例によると、労働基準法第24条第1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき当該相殺に同意した場合においては、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、当該同意を得てした相殺は当該規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である、とされている。

(平成18年 問2B)

【解答】○
【解説】(日新製鋼事件(平成2年11月26日最高裁判決))
■労働者が自由な意思に基づき相殺(合意相殺)した場合⇒全額払いの例外には反しない。


【問題】労働者が業務命令によって指定された時間、指定された出張・外勤業務に従事せず内勤業務に従事した場合には労働者は債務の本旨に従った労務の提供をしたものであり、使用者が業務命令を事前に発して、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶していたとしても、当該労働者が提供した内勤業務についての労務を受領したものといえ、使用者は当該労働者に対し当該内勤業務に従事した時間に対応する賃金の支払義務を負うとするのが最高裁判所の判例である。 

(平成23年 問6B)
【解答】×
【解説】(水道機工事件(昭和60年3月7日))
■出張・外勤業務の業務命令を無視⇒その間内勤業務に従事した労働者に賃金を支払う必要があるのかどうかが論点。
■(結論)使用者は賃金し払いの義務は不要としたのが判決。
■考え方としては、従業員が業務命令を無視して勝手し放題に業務をし、賃金を受けていると収拾が付かなくなるので当然の結果。


【問題】労働協約において稼働率80%以下の労働者を賃上げ対象から除外する旨の規定を定めた場合に、当該稼働率の算定に当たり労働災害による休業を不就労期間とすることは、経済的合理性を有しており、有効であるとするのが最高裁判所の判例である。

(平成23年 問6C) 

【解答】×
【解説】(日本シェーリング事件(平成元年12月14日))
■稼働率80%以下の者を賃上げ対象から除外する労働協約は有効なあり得る話。
■次に、その稼働率の算定に労働災害による休業を不就労期間に含めるのかどうかが論点。
■(結論)含めない。
もし、労災による不就労期間を稼働率の算定に含めると労働者に不利益が生じるため。


【問題】労働基準法第24条第1項の賃金全額払の原則は、労働者が退職に際し自ら賃金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、その意思表示の効力を否定する趣旨のものと解することができ、それが自由な意思に基づくものであることが明確であっても、賃金債権の放棄の意思表示は無効であるとするのが最高裁判所の判例である。

(平成22年 問3D)

【解答】×
【解説】(法24条、シンガー・ソング・メシーン事件(昭和48年1月19日最高裁判決))
■賃金に当る退職金債権放棄の意思表示⇒それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは有効。


【問題】労働安全衛生法第66条の規定による健康診断の結果に基づいて、使用者が、ある労働者について、私傷病のため、同法第66条の5第1項の定めるところに従い、健康診断実施後の措置として労働時間の短縮の措置を講じて労働させた場合には、使用者は、当該労働者に対し、労働の提供のなかった限度において賃金を支払わなくても差し支えない。

(平成15年 問3E)

【解答】○
【解説】(法24条、法26条、昭和63年3月14日基発150号)
健康診断の結果に基づき、労働時間の短縮措置を講じた場合使用者の責めに帰すべき事由による休業に該当しない
■従って、実際に労働しなかった部分についての賃金を支払わう必要はない。


【問題】毎月15日に当月の1日から月末までの賃金を支払うこととなっている場合において、月の後半に2日間の欠勤があり賃金を控除する必要が生じたときは、過払いとなる賃金を翌月分の賃金で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、労働基準法第24条の賃金の支払いに関する規定(賃金全額払の原則)の違反とは認められない。

(平成17年 問1B)
【解答】○
【解説】(法24条1項、昭和23年9月14日基発1357号、福島県教組事件(昭和44年12月18日最高裁判決)
■給与計算の事務手続き関係の問題。

■設問のように調整的な処理程度で、その調整の時期、金額、方法等から見て、労働者の経済的生活の安定との関係上、不当と認められない場合⇒賃金全額払の原則に違反しない。


【問題】労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合、譲渡人である労働者が債務者である使用者に確定日付のある証書によって通知した場合に限り、賃金債権の譲受人は使用者にその支払を求めることが許されるとするのが最高裁判所の判例である。

(平成21年 問4C)

【解答】×
【解説】(電電公社小倉電話局事件(昭和43年3月12日最高裁判決))
■労働基準法24条では、直接払いが大原則。

■「譲渡人である労働者が債務者である使用者に確定日付のある証書によって通知した場合に限り・・・」であっても不可。


【問題】最高裁の判例によると、労働基準法第24条第1項ただし書の要件を具備する「チェック・オフ(労働組合費の控除)」協定の締結は、これにより、同協定に基づく使用者のチェック・オフが同項本文所定の賃金全額払の原則の例外とされ、同法第120条第1号所定の罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎない、とされている。

(平成17年 問1C)
【解答】○

【解説】(法24条1項但書、エッソ石油事件(平成5年3月25日最高裁判決))
■判例によると
①チェック・オフ協定は、法120条第1号所定の罰則の適用を排除するという効力を有するにとどまる(免罰効果)
②使用者にチェック・オフを行う権限を与え、労働者にチェック・オフを受任する義務を負わせるものでない。
③組合員は、使用者に対していつでもチェック・オフの中止を申出することができる。
等々が判例の内容。
■つまり、「労働組合費を給料から天引きし、労働組合に支払うことは、罰則を見逃してあげている程度で、必ずしも労働基準法上は諸手を上げて全額払いの例外として考えているのではない」というのが趣旨。


                          ≫[労働基準法 過去問メニュー]