平成25年 労働経済白書 まとめ その3(完)

労働市場における人材確保・育成の変化
●新規学卒採用において企業が求める人材
入職の約半数は転職入職で転職入職率は上昇傾向である。

配置転換も増加しており、企業は経営が苦しい時期に、より穏やかな雇用調整方法として配置転換により事業間の人員配分を行ったと推測される。
企業は若年者の採用に当たり、熱意、行動力、協調性といった人間性や人物像をより重視している。
若者の就職支援の推進のため、企業は、いかなる人材を求めるのかを一層明確にするべきであり、大学は学生の能力の向上を実現し、学生のインターンシップ参加の促進を図っていくべきである。

政府としても中小企業団体、ハローワーク、大学等間の連携強化・情報共有化などを行う必要がある。


●日本的雇用システムと今後の課題
日本で大企業を中心にみられる「長期雇用」やいわゆる「年功賃金」という日本的雇用システムについて、男性の勤続年数を国際比較すると、日本は35~54歳において最も長いが、フランス等大陸ヨーロッパ諸国も長い。

勤続年数別の賃金プロファイルをみると、日本だけでなくドイツ等も傾きが大きくなっている。
長引く低成長、労働者の高齢化、日本的雇用システムの対象者となる正社員が増えない中での非正規雇用労働者の増加共働き世帯の増加ワーク・ライフ・バランスの要請など日本的雇用システムが定着した高度経済成長期から経済社会構造は大きく変化しており、その対応が求められている。
長期雇用については、長期勤続の正社員割合が高い企業ほど人材を確保する上での問題が少ないなどメリットもあり、労働者のためだけでなく、企業にとっても雇用の安定を図ることが重要である。
企業の賃金制度についてはこれまでも見直しが進められ、その結果、管理職以外の基本給の決定要素について、年齢・勤続年数を選択する企業割合は低下一時的に高まった業績・成果も低下する一方職務・職種などの仕事の内容が大企業を中心に高まっており、職務遂行能力は依然最も高い


企業が今後重視する賃金決定要素では、長期雇用前提の職務遂行能力が引き続き重視される見込みであり、労使の合意の下に、労働者の意欲と能力が発揮され企業が活性化するための賃金・処遇制度に向けた取組が今後とも求められる。

●構造変化と非正規雇用
我が国経済における非正規雇用は、企業が経済変動や中長期的な構造変化に対応する中で、雇用形態の多様化の進行とともに増加してきた。
1985年~2010年の25年間、正規雇用は総じてみると大きく減少していない一方、非正規雇用は大きく増加した。

非正規雇用はパートに加えてそれ以外の形態が増加した。労働力の高齢化が進行したことが非正規雇用の増加に寄与した。
非正規雇用の活用実態は産業により異なるが、どの産業でも非正規雇用の比率が高まるとともに、基幹化・戦力化の動きが見られる。しかし今後、正社員比率を高める企業の割合は、非正社員比率を高める企業の割合を上回る。

2013年1 ~ 3 月の非正規雇用労働者は1,870万人、役員を除く雇用者に占める割合(非正規雇用労働者比率)は36.3%である。非正規雇用労働者の多くは有期契約労働者である。

有期契約労働者は1,444万人で、役員を除く雇用者に占める有期契約労働者の割合は28%である。このうち勤続年数が5 年超の者は426万人と推計されるが、今後、より多くの者の無期雇用への移行が期待される。


一方、不本意非正規は348万人となっている。また、正社員になりたい非正社員は339万人(2010年)と推計される。非正規雇用労働者の中には、世帯の主たる稼ぎ手でない者や在学中の者、高齢者も多いが、世帯所得の相対的に低い世帯に属する主たる稼ぎ手の非正規雇用労働者(在学中の者や60歳以上の高齢者を除く)を試算すると、約149.2万人(役員を除く雇用者全体の2.9%)と推計される。このようなより支援の必要性の高い者に焦点を当てながら、適切な能力開発の機会の提供等を通じて、雇用の安定や処遇の改善を図っていくことが重要である。

また、今後、人材確保・定着等の観点から「多様な働き方」の普及が進むことも考えられるが、改正労働契約法の全面施行もその普及・促進につながるものとして期待される。
企業にとっては従業員のモチベーション向上や人材の確保・定着を通じた生産性の向上、労働者にとっては非正規雇用労働者のキャリアアップ、より安定的な雇用機会の確保といった観点から、「多様な働き方」の選択肢が整備されつつ、各企業の労使が中長期的な観点から最適な従業員・雇用の組み合わせを実現していくことが、成長を通じた雇用・所得の増大にもつながっていくものと考えられる。
こうした分析内容を踏まえ、今後、日本経済が持続的に成長し、企業収益の改善、国内投資の拡大、生産性の高い部門への労働移動、賃金上昇と雇用の拡大、消費の拡大という「好循環」を実現していくためには、企業と労働者の双方が構造変化に対応し、競争力と人材力を強化していくことが必要である。

経済のグローバル化や少子高齢化が進行し、企業を取り巻く環境は変化を続けており、企業が成長分野を見据え、競争力を向上させていくことへの支援が重要である。
また、人材は我が国の最大の資源であり、日本企業の競争力の源泉である。今後の雇用システムにおいて、労働者の意欲と能力の発揮とともに雇用の安定が図られ、「全員参加の社会」を構築することが重要である。
日本経済において潜在的な競争力と人材力が強化され、十全に発揮されるためには、政労使の連携の下、成熟分野から成長分野への失業なき労働移動や多様な働き方の実現といった「成長のための労働政策」を推進していくことが重要である。